昔の話、ニコンの一眼レフを買った。
広角レンズと望遠レンズも買った。
三脚も買った。
それらを持って、一人、四国へ旅をした。
足摺岬で停まって、海を撮った。
途中まで電車に乗り、
宿毛あたりでバスに乗った。
急カーブの細い山道を
遠心力で崖に引っ張られるのを計算しているかのような
ハンドルさばきで、運転手は正確な時間に足摺岬まで運んでくれた。
なんども海に投げ飛ばされたような感覚のまま、
降り立った土地は、南国だった。
あのとき、一人で四国に行かなければ、何かが変わっていただろうか。
そのカメラは今も家にある。
使わなくなったわけは、デジタルカメラの手軽さに負けたのではなく、
思い出に封印したかったせいかもしれない。